めまい・・・耳石器障害

めまいの原因には100以上のものがあります。
そのなかのひとつ、耳石器の障害に関して、「耳石器機能障害について 永井 賀子」より。

耳石器の機能について 耳石器には球形嚢と卵形嚢があり,球形嚢では垂直方向,卵形嚢では水平方向の直線加速度を検出している。

耳石器からの反射弓には前庭動眼反射,前庭頚反射,前庭脊髄反射があり,これらの機能により視覚情報の安定や姿勢の保持が可能になる 。
耳石器機能障害が生じると直線加速度や頭部の傾きの検出に左右差が出現し,耳石器の反射弓の障害によって視覚情報や姿勢の安定性に支障をきたす。
姿勢の不安定性が症状の中心となるとため,耳石器機能 障害のめまいの性状としては回転性めまいというより浮動性であることが推測されている。
耳石器障害によるめまい 温度眼振検査が正常であるにもかかわらず cVEMP や oVEMP が異常を示す患者が存在することが以前から報告されている 。
Seoらは2008年に非回転性めまいを訴える原因不明のめまい患者18 例中6例で cVEMP の異常がみられたことを報告しており,それらは前後方向または上下方向の動揺感を訴えていたことから原因不明のめまいの中に耳石器機能障害によるめまいが含まれていると指摘している 。
Manzari らは,半規管機能正常の一側性 卵形嚢障害を報告している。
この症例の症状は姿勢保持の不安定性であり,水平性自発眼振がみられ た。水平,垂直半規管の vHIT,カロリック検査, cVEMP は正常で oVEMP は異常を呈した。
耳石器の単独障害による症状の特徴として急性期の症状は重く,一部の患者は回転性めまいを訴えるが,多くは起立時,歩行時に倒れそうになる不安定感を訴えると報告しており,姿勢の不安定性は耳石器機能障害の指標とみなされるべきであると述べている。
耳石器機能障害によるめまいの病態生理はまだ解明されていないが,2015年に特発性耳石器障害という疾患概念を Murofushi らが提唱している 。
一側性の側方へ傾斜あるいは並進感,一側性の前後方向への傾斜あるいは並進感,一側性の上下方向への並進感のいずれかの症状を持ち,回転性めまいの既往,意識消失や頭部外傷の既往,中枢神経障害や固 有知覚障害,めまいや平衡障害をきたす既知の疾患 (メニエール病や前庭性片頭痛など)を含まないという診断基準を提唱している。
ほかにも,低音障害型の難聴を伴うが現行のメニエール病の診断基準に 当てはまらない患者に対して,cVEMP,oVEMP 検査を行い,その結果から責任病巣は球形嚢蝸牛内リンパ水腫と考えられる4症例が報告されている 。
また,2018年に Fujimoto らが,277人に温度眼振検査,vHIT,cVEMP,oVEMP を行った結果を報告している 。
温度眼振検査が正常,vHIT が正常, VEMP が異常であったのは76人で,疾患の内訳は BPPV(14%),MD(11%)の順に多く,既知のめまい疾患に当てはまらない28人(37%)が特発性耳石器機能障害と考えられたと報告されている。
この報告によると最も多かっ た臨床症状は,反復する回転性めまいで,次に起立時や歩行時の不安定であった。また,反復する drop attack を訴える症例が一例みられた。
持続時間は2~3秒から数日であり,1~12時間以内というの が最も多かった。
半規管機能検査で正常かつ耳石器機能検査が異常を示した患者のめまい発作の持続時間は半規管機能検査で異常かつ耳石器機能検査で正常を示した患者の発作時間よりも短く,24時間以内であったと報告している。
前庭性の drop attack は進行性の内リンパ水腫を示唆しているとされる。
Tumarkin’s drop attack を 有するメニエール病患者の VEMP 結果から耳石器機能障害の関与が報告されている 。
Huang and Young は,drop attack を経験したメニエール病症例は,cVEMP は両側反応がなく,一側,もしくは 両側の cVEMP 異常があったと報告している。
このような症例の卵形嚢機能は,drop attack 前後で変動すると考えられている。
耳石器機能障害によるめまいの性状は回転性めまいというより姿勢不安定などの浮動性めまいが推測されるが,回転性めまいが多く,drop attack の症例が報告されている。
これは耳石器単独の障害ではなく,メニエール病に移行する症例が潜在する可能性について示唆され,検査結果が耳石器機能障害のみであっても回転性めまいや drop attack を有する症例では,メニエール病などの内リンパ水腫が潜在している可能性もあり,長期的なフォローが望まれる。
予後について 多くの症例で耳石器機能障害は残存するが,姿勢の不安定性などの症状は改善するとされている。
時間とともに急性期の重篤な症状はなくなるが, oVEMP の非対称性は残存する。
症状や検査結果の経過は半規管麻痺の改善の経過と似ている。以前, われわれは一側性の顔面神経麻痺症例で顔面神経減 荷術後の oVEMP の回復症例を報告したが,上前庭神経炎の症例でも oVEMP の改善の報告があり,代償というより卵形嚢の完全な回復例がみられ,卵形嚢機能は変動している可能性がある。
耳石器機能障害の病態生理は正確には明確にされていない。
VEMP は反射弓のいずれかに問題があっても異常をきたすため,VEMP 結果が異常であっても,耳石器自体の機能障害とい うわけではない。
姿勢不安定性や回転性めまいのほかに drop attack を有する症例でも耳石機能障害を疑う必要があり積極的な検査が望まれる。
これまで原因不明とされてきためまいに対して部位診断が可能になり,新しい疾患概念が生まれた。



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